はじめに

「トラウマを抱えてから、胸が重く感じる」「息が浅くなった」「鼓動が乱れる」
このような訴えは、単なる気のせいではありません。

近年、トラウマと心臓の関係性が神経科学や心理学の領域で注目されています。
同時に、スピリチュアルな文脈でも「心臓=ハート」が心の中心として語られてきました。

本記事では科学的根拠と象徴的な側面の両方から心臓とトラウマの関係を解説します。
さらに、当院「治療室アワノネ」での臨床的観察も交えて、心臓へのアプローチが全身に及ぼす影響について紹介します。


1. 科学的にみる「トラウマと心臓のつながり」

1-1. 自律神経と心拍リズム

心臓は自律神経によってコントロールされており、ストレス反応に非常に敏感です。
トラウマ体験は交感神経を過剰に活性化させ、副交感神経(迷走神経)の働きを抑制します。

その結果、

  • 心拍数の上昇(動悸)
  • 呼吸の浅さ
  • 睡眠の質の低下
    などが生じやすくなります。

神経科学者スティーブン・ポージェスによる**ポリヴェーガル理論(Polyvagal Theory)**では、
トラウマとは「迷走神経による安全反応が失われた状態」とされています。
つまり、心臓のリズムが“安心と緊張”の間で柔軟に切り替えられなくなるのです。


1-2. 心拍変動(HRV)とトラウマ

トラウマの影響を客観的に測る指標のひとつが、**心拍変動(HRV: Heart Rate Variability)**です。
HRVが高いほどストレス耐性が強く、低いほど心身が緊張状態にあるとされます。

PTSDや慢性ストレスを抱える人では、HRVの低下が多数報告されています。
(参考:Hauschildt M. et al., Frontiers in Psychology, 2021)

これは、副交感神経の調節力が弱まり、心臓が「一定のテンションで動き続ける」状態です。
その結果、感情のゆらぎを感じづらくなり、ストレス耐性や回復力にも影響します。


1-3. 心臓は「感情を伝える臓器」

心臓には「心臓神経叢(cardiac plexus)」と呼ばれる神経ネットワークが存在し、
脳の扁桃体(感情処理中枢)と双方向で情報をやり取りしています。

恐怖や不安を感じると、心臓の拍動変化が扁桃体へ信号を送り、感情反応を強める。
その逆に、心拍が穏やかであるほど、感情も安定しやすくなるという研究もあります。

つまり、心臓は「感情の鏡」であり、身体と心をつなぐ重要なハブなのです。


2. スピリチュアルな観点:心臓は「ハートの中心」

2-1. 心臓は魂の象徴

古代エジプトやギリシャでは心臓は人格や意識の座と考えられていました。
現代でも「胸が痛む」「心が締めつけられる」といった表現に残るように、
人は感情的ショックを心臓で感じ取ります。

トラウマとは身体感覚として「ハートが閉じる」体験でもあるのです。


2-2. 第4チャクラ(アナハタ)とトラウマ

東洋思想において、心臓の位置には**第4チャクラ(アナハタ)**が存在します。
このチャクラは「愛・共感・受容・つながり」を司るエネルギーセンター。

トラウマによってアナハタが閉じると、

  • 他者との関係が築きにくくなる
  • 自己否定感が強まる
  • 愛情表現が難しくなる
    といった心理的パターンが現れるとされます。

呼吸や瞑想を通じてこの領域を開放することは、心理療法的にも理にかなったアプローチです。


2-3. ハートコヒーレンスという概念

米国ハートマス研究所(HeartMath Institute)が提唱する**ハート・コヒーレンス(Heart Coherence)**は心拍リズムと脳波の調和状態を指します。

感謝や思いやりの感情を抱くことで心拍リズムが整い、
自律神経機能・集中力・免疫力の向上につながることが報告されています。

科学とスピリチュアルの接点としても注目される領域です。


3. 臨床的視点:治療室アワノネでの取り組み

当院「治療室アワノネ」では、
近年、心臓に関係する組織へのアプローチを探求しています。

心臓そのものに直接触れるわけではありませんが、
その周囲の組織――胸骨、肋間筋、心膜、横隔膜、胸椎前方部など――は、
心臓の位置や動きを支える重要な構造です。

これらの組織が柔軟性を取り戻すと、呼吸が深くなり、
全身の血流や神経バランスに波及的な変化が起こります。

実際、ここ最近の臨床では、
この“ハート領域”をリリースすることで、
肩や首の可動性だけではなく骨盤や下肢などに変化が波及し、症状が改善するケースを確認しています。

心臓は循環の中心であると同時に全身の調和を象徴する“中核”でもあります。
そのため、ハートにアプローチすることは全身の治癒力を整えることにつながると感じています。


まとめ

観点内容主なキーワード
科学的トラウマは自律神経・HRVを乱し、心臓リズムを硬直させるポリヴェーガル理論、迷走神経、心拍変動
スピリチュアルトラウマはハートチャクラの閉鎖として現れるアナハタ、ハートコヒーレンス、感情の中心
臨床的心臓周囲組織の柔軟性回復により全身に好影響が波及する胸郭、心膜、横隔膜

トラウマは脳だけでなく、心臓や胸郭を通して身体全体に刻まれます。
そのため、心臓を含む胸部の解放は、身体と心を再びひとつに取り戻すための重要なプロセスなのかも知れません。