はじめに
人工股関節置換術(THA)の術後リハビリは、一般の方には「とにかく頑張らないと回復が遅れる」というイメージが強いかもしれません。
しかし実際にはリハビリを“懸命にやりすぎること”が回復を妨げる場合があることをご存じでしょうか。
本記事では、その理由を医学的背景と臨床現場のリアルを交えて解説します。
1. 回復期に過度なストレスを与えるリスク
手術後の組織は、切開や展開によって「治癒プロセスの真っただ中」にあります。
そのため、本来必要なのは 適度な負荷と時間 です。
● 過度な運動が引き起こす問題
- 炎症の長期化
- 筋緊張の増大
- 疲労性の痛みが慢性化する可能性
特に人工関節周囲の軟部組織(筋膜・腱・靭帯)は手術侵襲により一時的に脆弱になります。
この時期に過度な筋トレや大きな可動域訓練を行うと、回復スピードがむしろ落ちることは臨床では珍しくありません。
「やればやるほど良い」という考え方は、術後の回復プロセスには適合しないと言えます。
2. 術後の炎症という“自然で必要な反応”
手術後に炎症が起こるのは体が損傷を修復するための正常な反応です。
炎症期(術後〜数週間)は次の特徴があります。
- 組織が腫れやすい
- 熱感や違和感が出やすい
- 痛みが強くなるタイミングがある
この時期に強い負荷をかけると炎症がぶり返したり長引いたりします。
特に人工関節は骨とインプラントの安定(固定性)が重要ですが炎症が強いと 筋の協調性や支持力が低下し、正しい歩行が作りにくくなる のです。
リハビリは必要ですが、
炎症期は“適切な量だけ行う”ことが最も回復を早める近道 になります。
3. ここだけの話:理学療法士の経験や技術には実際に差がある
あまり語られることはありませんが、臨床現場では 担当する理学療法士の技量によってリハビリの質が大きく変わる ことがあります。
● 一般的な傾向として…
- 経験豊富な理学療法士
- 技術レベルが高い理学療法士
- 股関節領域に強い関心や専門性を持つ理学療法士
こうした人材は、より良い条件の職場に移ったり、自費リハビリや開業に進んだりするケースが多いのも事実です。
つまり病院によっては、
“誰にあたるかでリハビリの方針や質が変わる”
という不均一さが起こりやすいのです。
もちろん、病院リハビリが悪いという意味ではありません。
ただし、
- 無理な負荷をかける“量重視”のリハビリ
- マニュアルに沿った画一的なメニュー
- 痛みを伴っても続けさせる指導
が提供されるケースも珍しくないのが現実です。
だからこそ、患者さん自身が
「必要以上に頑張りすぎることは逆効果になる」
という正しい知識を持っておくことが大切です。
まとめ
人工股関節術後のリハビリは、
“がむしゃらにやるほど良い”というものではありません。
特に重要なのは次の3点です。
- 回復期に過度なストレスをかけると逆効果になる
- 術後炎症は自然で必要な反応であり、無理をすると長引く
- 担当者によってリハビリの質に差がある現実を理解しておく
適切な量とタイミングで進めていけば、人工関節は十分に機能を発揮します。
「頑張りすぎないリハビリ」が、結果的にはもっとも回復を早める道なのです。