人工股関節置換術（THA）は変形性股関節症や大腿骨頭壊死などによる強い痛みに対して生活の質を高めるために行われる治療です。
近年、その成功率をさらに高める取り組みとして「手術前リハビリ（プレハビリテーション）」が注目されています。

この記事では手術前の準備がなぜ大切なのか、そして「手術する・しない」が決まっていない段階での保存療法がどのように役立つのかを解説します。

手術前リハビリの目的

手術前リハビリは単に筋力を鍛えるという発想ではなく、術後の回復をスムーズにするための準備です。
主な目的は次の3点です。

支持筋力の維持

手術後は一時的に筋力が低下します。術前から体力を整えておくことで、その落差を小さくし、回復のスピードを高めることが期待されます。

関節可動域の確保

筋膜や関節包の硬さは術後の可動域訓練を妨げます。術前に可動域を確保しておくことで術後のリハビリが進みやすくなります。

姿勢・呼吸の調整

股関節痛が長く続くと歩行や姿勢にクセが生じます。これらを整えておくことで術後の負担を減らし、回復を助けます。
また、呼吸の質は炎症や回復プロセスにも影響すると考えられています。

手術するかどうか決められていない段階でも保存療法は効果的

手術を受けるかどうかの判断は簡単ではありません。
しかし、その結論が出ていない段階でも保存療法に取り組んでおくことには大きな意味があります。

保存療法がそのまま「手術前リハビリ」になる

保存療法として行う筋力維持や可動域改善、姿勢調整、歩行訓練は、手術前リハビリとほぼ同じ内容です。

そのため、保存療法を続けている方は次の2つのメリットを得られます。

・手術を回避できる可能性
・手術になった場合でも術後の回復が早くなる

結果として、「手術すると決まってから準備を始める」のでは遅く、保存療法そのものが未来の身体づくりにつながります。

手術前リハビリの効果を示す研究

海外を中心に手術前リハビリの有効性を示す報告が増えています。

・術後の歩行速度が改善する
・入院期間の短縮傾向がある
・術後3か月時点の筋力が高い
・転倒のリスクが低下する可能性がある

日本でもプレハビリを導入する医療機関が徐々に増えつつあります。

痛みがある時でも取り組んでよいのか

痛みがある状態で動くことに不安を持つ方は多くいます。
手術前リハビリや保存療法では痛みを悪化させない範囲で行うことが大前提です。

・無理をしない
・回数より質を意識する
・フォームが崩れたら休む
・痛みが強い日は無理に行わない

股関節は負担が他の部位に波及しやすいため、安全な範囲で継続することが重要です。

保存療法は術後の回復力を高める「土台づくり」

保存療法を続けることで筋力、柔軟性、姿勢、呼吸、歩行パターンなどが整っていきます。
これはそのまま術後の回復を支える身体の土台になります。

手術を決断するかどうか迷っている段階であっても、保存療法に取り組むことは無駄になりません。
むしろ、将来の選択肢を広げ、もし手術を受ける場合にも回復を助ける準備となります。