はじめに
「日本の精神科は欧米に比べて薬を多く処方している」──そんな話を耳にしたことはありませんか?
これは一部の都市伝説ではなく、実際に厚生労働省や海外比較調査でも指摘されている傾向です。
本記事では実際の統計データと学術研究をもとに日本の精神科医療における薬物処方の特徴と背景を読み解いていきます。
日本の精神科処方の現状:多剤併用の傾向
精神科の治療では抗精神病薬・抗不安薬・抗うつ薬・睡眠薬などさまざまな薬が用いられます。
日本ではこれらの薬を**複数同時に処方する”多剤併用”(ポリファーマシー)**の傾向が強いことが、複数の国際研究で明らかになっています。
たとえば、厚生労働科学研究の報告(2015年)では、統合失調症の外来患者に対する抗精神病薬の単剤処方率がわずか30%前後であったのに対し、欧米諸国では70〜90%が単剤処方と報告されています(※1)。
また、名古屋大学などの研究グループは、抗うつ薬や抗不安薬についても2剤以上の併用が多く見られ、長期投与になりやすいと指摘しています(※2)。
実際のデータ:REAP研究と日本の臨床現場
REAP(Research on Asian Psychotropic Prescription Patterns)というアジア15か国を対象とした大規模研究では、日本は抗精神病薬の3剤以上併用率が突出して高い国であると報告されました(※3)。
- 日本の抗精神病薬3剤以上併用率:約32〜42%
- 単剤率は他国に比べて明らかに低水準
この研究では、他国(台湾、韓国、マレーシアなど)と比較しても、 日本がいかに多剤・高用量処方を好む傾向にあるかが示されています。
なぜ多く処方されるのか?
日本の精神科で薬が多く処方されやすい背景には、いくつかの制度的・文化的要因があります。
1. 外来診療の短時間化
診察時間が限られる中、症状にすぐ対応できる手段として薬物療法が選ばれやすい傾向があります。
2. 心理療法・カウンセリングへのアクセス不足
欧米と比べ、精神療法や認知行動療法の保険適用範囲が狭く、 非薬物療法を受けるハードルが高い現状があります。
3. 「薬=治療」という社会的期待
患者側にも「薬を出してもらわないと治療してもらった気がしない」といった意識が根強く、 結果的に医師も処方に応じざるを得ないケースがあります。
多剤処方のリスクとは?
多剤併用には、次のようなリスクが報告されています。
- 副作用の増加(例:錐体外路症状、ふらつき、眠気、代謝異常など)
- 再発率の増加:メタ解析では、多剤併用群は単剤群に比べて再発リスクが1.4倍以上(※4)
- 身体的合併症:QT延長、肝機能障害、糖尿病リスクなどの身体症状も重なりやすくなります。
つまり、必要以上の薬は、かえって心身の機能を低下させる可能性があるのです。
改善に向けた取り組み
近年、日本でも多剤処方の是正に向けた取り組みが進んでいます。
- 診療報酬制度の見直し:2020年以降、多剤・長期処方に対しては報酬が減算される仕組みに。
- 薬剤師・チーム医療による処方見直し:多職種連携によって適正処方を進める医療機関も増加中。
- 心理療法の普及促進:CBT(認知行動療法)など、非薬物療法の保険適用の拡大が進められています。
まとめ
- 日本の精神科では、欧米に比べて薬の多剤・高用量処方の傾向が強いことが明らか
- 背景には、医療制度・文化・患者意識が複雑に絡み合っている
- 多剤併用には副作用や再発リスクの増加などのリスクがある
- 近年は単剤処方や非薬物療法への移行に向けた制度改革が進行中
読者の皆さんへ
現在、精神科で薬を処方されている方やそのご家族の方も、 「これって本当に必要な薬なのかな?」と一度立ち止まって考えてみることが大切です。
気になる場合は、医師に遠慮なく相談したり、セカンドオピニオンを検討することも選択肢のひとつです。
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参考文献
※1:厚生労働科学研究班『精神科薬物療法の適正化に関する研究』(2015年)
※2:藤澤大介ら『我が国における向精神薬処方の実態と課題』(名古屋大学, 2022)
※3:REAP(Research on Asian Psychotropic Prescription Patterns)
※4:Clozapineと他剤の再発率に関するメタ解析(J Clin Psychiatry, 2021)