整体やストレッチをしても、
「その場では軽くなるのに、またすぐ元に戻る」
そんな経験をしたことはありませんか?
筋肉を一生懸命ほぐしても、すぐに硬くなってしまう——。
その背景には、筋肉の問題ではなく「深部感覚(しんぶかんかく)」の乱れが関係している場合があります。
深部感覚とは何か
深部感覚とは、筋肉・腱・関節などに存在する感覚受容器から送られる情報で、
「体の位置」「力の加わり方」「関節の角度」などを脳や脊髄に伝えています。
この情報をもとに、脳は「どこに体があるか」「どの程度力を入れるべきか」を判断し、
姿勢や動きを自動的に調整しています。
言い換えれば、**深部感覚は“体を動かすためのナビゲーションシステム”**です。
感覚の乱れが筋肉を硬くする
慢性的な痛み、ケガ、長時間の同じ姿勢などが続くと、
関節や筋肉にある感覚受容器の働きが鈍り、
「正確な位置情報」が脳や脊髄に届きにくくなります。
その結果、脳は「この動きは危険かもしれない」と判断し、
筋肉を防御的に緊張させて関節を守ろうとします。
この状態では、施術などで一時的に筋肉をほぐしても、
脊髄の防御反射が解除されないため、すぐに元の硬さに戻ってしまうのです。
研究で示されている“感覚と可動域”の関係
深部感覚の低下と関節可動域の制限の関係は、研究でも示されています。
たとえば、
- Tuthill & Azim(2018, Neuron) は、運動制御における感覚フィードバックの重要性を示し、筋活動の微調整は脊髄レベルで感覚情報によって調整されていると報告しています。
- Proske & Gandevia(2012, Physiological Reviews) は、深部感覚が損なわれると姿勢や動作の制御が不安定になり、筋緊張が増すことを明らかにしました。
- また、Chang et al.(2016, Journal of Orthopaedic Research) の研究では、股関節疾患患者では健常者に比べて深部感覚が有意に低下しており、それが動作時の筋活動パターンに影響することが示されています。
つまり、筋肉の硬さや関節の動きづらさの背後には、神経と感覚の機能異常が潜んでいることが科学的にも支持されています。
感覚を整えると、体は自ら緩む
深部感覚が正しく働くようになると、
脊髄が「この動きは安全だ」と再認識し、
余計な筋緊張が解除されます。
たとえば、以下のような感覚再教育(センサーの再活性化)が有効です。
- 股関節をゆっくり小さく揺らす
- 片脚立ちで足裏の圧を感じ取る
- 目を閉じて脚の位置を意識する
- 軽い振動刺激で関節周囲に感覚入力を与える
こうした“感じる練習”を重ねることで、
脊髄や脳に正確な情報が戻り、自然に筋肉が緩むようになります。
「ほぐす」よりも「感じる」へ
筋肉を緩めるだけでは、体は根本的に変わりません。
大切なのは、「筋肉を支配している神経」がどう感じているか。
体のセンサーを整え、
神経が“安全”と判断できる状態を取り戻すことで、
動きは滑らかに、そして再発しにくい体へと変わっていきます。
動きを変えるには、まず“感じ方”を変えること。
それが、股関節をはじめとする関節機能を改善するうえでの本質です。