人工股関節の手術を受けたあとに、
「痛みはなくなったけれど、左右で感覚が違う」
「まっすぐ立っているつもりでも、どこかバランスが取りづらい」
と感じる方は少なくありません。
こうした感覚の差は、筋力の問題というよりも、神経的な情報の変化が関係しています。
本記事では、股関節の左右差と神経連携の関係について解説します。
左右の股関節は神経的に連携している
私たちは日常的に、左右の股関節を別々に動かしているように見えますが、
実際には脊髄や脳で左右の情報が常にやり取りされています。
たとえば歩行動作。
右脚を前に出すとき、左脚は自然に体を支える動きをします。
この交互運動は、脊髄内の「歩行中枢パターン」と呼ばれる神経ネットワークによって自動的に制御されています。
つまり、左右の股関節は筋肉や骨格だけでなく、神経ネットワークによって一体化して働いているのです。
人工関節になると感覚センサーが減る
股関節のまわりには、関節包や靭帯に多くの**感覚受容器(深部感覚センサー)**が存在しています。
これらは「関節の位置」や「動きの方向」「負荷のかかり方」といった情報を脳に伝える重要なセンサーです。
ところが人工関節の手術では、これらの組織の一部が除去され、代わりに人工物(チタンやセラミックなど)が入ります。
人工物には感覚受容器が存在しないため、脳に届く情報量が減少します。
結果として、左右の神経的な情報バランスが崩れ、感覚の違いとして感じられるようになるのです。
感覚の偏りが生む違和感
感覚情報の左右差は、次第に動作の中に表れてきます。
- 支える側の脚に重心が偏る
- 一歩目の出だしが不安定になる
- 片脚立ちが難しくなる
- 骨盤の左右差が強まる
これらは単なる筋力不足ではなく、感覚入力の減少による神経的な偏りの影響と考えられます。
感覚の違いは「異常」ではない
こうした左右の感覚差は、決して異常なことではありません。
むしろ、手術後に体が新しい環境へ適応しようとしている自然な神経の再構築過程です。
脳や神経には「可塑性(plasticity)」と呼ばれる性質があり、
新しい情報に合わせて自らの構造や働きを変化させることができます。
時間の経過とともに、神経ネットワークは再び安定し、
体は「新しい関節」を自分の一部として感じ取れるようになります。
まとめ
人工股関節の手術後に感じる左右の違和感は、
神経の働きが変化しているサインでもあります。
体は常に新しい環境に適応し、再びバランスを取り戻す力を持っています。