「ストレスが続くと心が疲れる」というのは、誰しも経験したことがあるのではないでしょうか? 実は、この背景には**HPA軸(視床下部-下垂体-副腎系)**と呼ばれる体の仕組みが関わっています。HPA軸がうまく働かなくなると、うつ病につながることがわかっています。今回は、「HPA軸とは何か」「うつ病との関係」「HPA軸を整える方法」について解説します。
HPA軸とは?ストレスを感じると体に何が起こる?
HPA軸は、ストレスを感じたときに体が反応する仕組みです。
- **視床下部(ししょうかぶ)**がストレスを感知し、CRH(コルチコトロピン放出ホルモン)を分泌
- **下垂体(かすいたい)**が刺激を受けてACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を分泌
- **副腎(ふくじん)**がコルチゾール(ストレスホルモン)を分泌
このコルチゾールはストレスに対処するために血圧を上げたり、エネルギーを作り出したりする重要なホルモンです。ただし、ストレスが続くとHPA軸が過剰に働きすぎてしまい、心と身体に悪影響を与えます。
うつ病とHPA軸の関係──ストレスが長引くとどうなる?
1. ストレスでコルチゾールが出すぎる
長期間ストレスを受け続けるとコルチゾールが多く分泌され脳の働きに影響を与えます。
例えば、研究によると、うつ病の人はコルチゾールの分泌量が通常よりも高いことがわかっています(Kunugi et al., 2011)。特に記憶を司る海馬(かいば)がダメージを受け気分が落ち込みやすくなると報告されています。
2. HPA軸が疲れてしまい、コルチゾールが減りすぎる
ストレスが続きすぎると HPA軸が「もう頑張れない!」と機能低下を起こし、今度はコルチゾールが足りなくなります。
コルチゾールは適量であればストレスに対処する助けになりますが、不足すると「無気力」「体のだるさ」「疲れが取れない」といった症状が現れます。うつ病の人の中にはコルチゾールが低下しているケースもあることが研究で示されています(Pariante & Lightman, 2008)。
HPA軸を整えるためにできること
HPA軸が正常に働くようにするには、次のような習慣を取り入れることが大切です。
① 睡眠をしっかりとる
睡眠不足はHPA軸を乱す大きな原因です。「寝る時間」「起きる時間」を一定にし、質の良い睡眠をとることが大切です。
ポイント:
✔ 寝る前にスマホやPCを見ない(ブルーライトがHPA軸を刺激)
✔ ぬるめのお風呂にゆっくり入る(副交感神経を優位にする)
✔ できるだけ毎日同じ時間に寝る
② 適度な運動をする
運動はHPA軸のバランスを整える効果があります。研究によると、ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動がHPA軸の正常化に役立つことがわかっています(Kandola et al., 2019)。
ポイント:
✔ 1日20〜30分のウォーキング
✔ 無理のない範囲で続ける(週3〜5回が目安)
③ 瞑想や深呼吸でストレスをコントロール
ストレスがHPA軸を乱すため、リラックスする時間を意識的に作ることが重要です。
簡単な方法:
✔ 4-7-8呼吸法(4秒息を吸う→7秒止める→8秒で吐く)
✔ 1日5分の瞑想(目を閉じて深呼吸するだけでもOK)
④ 食事を整える
HPA軸を整えるためには栄養バランスも大切です。特に**オメガ3脂肪酸(青魚・くるみ)やビタミンB群(玄米・卵)**が役立つことが報告されています(Grosso et al., 2014)。
ポイント:
✔ 青魚(サバ・イワシ)を週2回食べる
✔ 玄米やナッツを取り入れる
まとめ:HPA軸を整えて心と体の健康を守ろう!
- HPA軸は、ストレスに対処するための大切な仕組み
- ストレスが長引くとうつ病のリスクが上がる
- 睡眠・運動・食事・リラックスを意識することでHPA軸を整えられる
日々の生活習慣を少しずつ改善することで心の健康を守ることができます。「なんだか気分が落ち込む」「疲れが取れない」と感じたら、HPA軸のケアを意識してみてください。
参考文献
- Kunugi, H., et al. (2011). Hypothalamic–pituitary–adrenal axis dysregulation in major depressive disorder. Neuroscience Research.
- Pariante, C. M., & Lightman, S. L. (2008). The HPA axis in major depression: Classical theories and new developments. Trends in Neurosciences.
- Kandola, A., et al. (2019). Physical activity and depression: Towards understanding the antidepressant mechanisms of exercise. Neuroscience & Biobehavioral Reviews.
- Grosso, G., et al. (2014). Dietary n-3 PUFA, fish consumption and depression: A systematic review and meta-analysis of observational studies. Journal of Affective Disorders.