股関節の痛みや変形が進むと、最終的には「人工関節」を考える方も少なくありません。
しかし、その前に「できるだけ自分の関節を残したい」と思うのは自然なことです。

そこで選択肢として提案されることがあるのが「骨切り術」です。

寛骨臼回転骨切り術や大腿骨骨切り術など、股関節の形を整えて負担を減らすことを目的とした手術です。
一見すると「骨を切って形を整えれば、関節がまた元のように機能する」と思えるかもしれません。

ですが、私はこの手術に対して慎重であるべきと考えています。


骨切り術を慎重に見る理由

骨を切って再び一体化するのは生理学的に難しい
骨片同士がしっかり癒合しても、もとの股関節のように滑らかで耐久性のある関節に戻るのは簡単ではありません。
関節面の適合性や軟骨の質、血流など、いくつもの要素が関係します。

形と機能は別物
X線写真で「関節の形が整った」ように見えても、それが「長期的に痛みなく動ける」ことを保証するわけではありません。
むしろ、骨切りの影響で新たなストレスやずれが生じることもあります。

リスクが大きい手術であること
骨を大きく切るため、出血・感染・神経や血管への影響、骨癒合不全といった合併症のリスクもゼロではありません。


「温存」という言葉の落とし穴

「人工関節を避けたい」「できるだけ自分の骨で」という思いに応えてくれるように見える骨切り術。
しかし、“温存=安全で長く使える” とは限りません。

実際、将来的に人工関節に移行せざるを得なくなるケースも多く報告されています。


人工関節に移行する割合

いくつかの研究報告では、骨切り術を受けた方の一定数が時間の経過とともに人工関節に移行しています。

たとえば、寛骨臼回転骨切り術(RAO)を受けた患者を追跡した研究では、
術後10~15年でおよそ20~30%が人工関節に移行したと報告されています。

また、大腿骨骨切り術でも、術後の経過が良好であっても20年近くの長期になると、
相応の割合で人工関節への置換が必要になる例が見られます。

つまり、「骨切り術をすれば一生自分の関節で大丈夫」というわけではなく、
人工関節への移行を“先送り”できる可能性がある手術だといえます。


人工関節になるまでの期間も

臨床現場では、骨切り術のあと数年から十数年の間に、
「痛みが完全には消えない」「動くと違和感がある」と訴える方も少なくありません。

関節の形が整っても、軟骨や周囲の筋・神経の状態が完全に元に戻るわけではないためです。
そのため、人工関節に至るまでの期間も、定期的なケアやリハビリを続けることが大切になります。


なぜ人工関節に移行するのか

理由はいくつかあります。

・手術で形を整えても、軟骨の質や血流は改善しないことが多い
・加齢や生活動作による摩耗で再び変形が進む
・骨切りによって新たにかかるストレスが長期的に関節に影響する

このように、関節面そのものが消耗してしまえば、最終的には人工関節を選択せざるを得ません。


骨切り術をどう考えるか

骨切り術は、若年で人工関節にするには早い方や変形が軽度の方にとって「時間を稼ぐ」方法の一つとしては意味があります。
しかし同時に、人工関節への移行が完全に避けられるわけではなく、
その途中の期間にも痛みや違和感を抱える人が多いことを理解しておく必要があります。


まとめ

骨切り術は関節を残す手段として一定の役割を果たしますが、
長期的にみると人工関節に移行するケースも少なくありません。

そして、人工関節に至るまでの期間も継続的なケアが欠かせません。

だからこそ、手術を検討する際には「いずれ人工関節に移行する可能性」や「自分の年齢・生活とのバランス」を踏まえて判断することが大切です。

治療の選択肢は一つではありません。保存療法も含めて幅広く考え、自分に合った最適な道を見つけていきましょう。