はじめに
股関節前面の痛みは腸腰筋由来と説明されることが多い症状です。実際、腸腰筋は股関節屈曲に深く関与し、疼痛の発生源となるケースも少なくありません。
しかし、海外の理学療法・スポーツ医学分野では、股関節前面痛を単一筋の問題として捉える考え方はすでに限定的になっています。
現在は複数の組織と運動連鎖を前提とした「多因子モデル」で評価・介入することが一般的です。
腸腰筋単独仮説の限界
腸腰筋に注目した評価や治療は有用ですが、以下のようなケースでは説明がつきません。
・腸腰筋の筋力や柔軟性に大きな左右差がない
・画像上、明らかな炎症や損傷が見られない
・ストレッチやリリースで一時的に改善するが再発する
海外の臨床報告では、こうした症例に対し、腸腰筋以外の前方組織が疼痛に関与している可能性が示唆されています。
海外で重視される股関節前面の解剖学的要素
股関節前面には、腸腰筋以外にも重要な構造が集中しています。
・前方関節包
・腸骨大腿靱帯
・大腿直筋深層
・筋膜(iliopsoas fascia, anterior hip capsule continuity)
・大腿神経、閉鎖神経の走行
海外では、これらの組織が「単独で問題を起こす」というより、相互作用の破綻によって痛みが生じると考えられています。
特に関節包の前方緊張と筋膜の滑走不全は、股関節伸展や荷重位での詰まり感として自覚されやすいポイントです。
動作ベースでの評価が重視される理由
海外リハビリで特徴的なのは、静的評価よりも動作評価を重視する点です。
・歩行時の股関節伸展角度
・立ち上がり動作での体幹・骨盤の代償
・片脚支持時の前面圧迫感
これらを通じて、
「どの動作の、どの局面で前面にストレスが集中しているか」
を評価します。
この視点では腸腰筋は原因の一部であり、必ずしも主因とは限らないと判断されることも少なくありません。
保存療法における海外のアプローチ
海外では、股関節前面痛に対して以下のような保存療法が組み合わされます。
・関節包の可動性改善
・筋膜滑走を意識した運動療法
・神経系の過敏性を考慮した負荷調整
・股関節単独ではなく、骨盤・脊柱を含めた運動再学習
重要なのは「痛みのある組織を特定する」よりも、「負担の集中をどう分散させるか」という考え方です。
まとめ
股関節前面の痛みを腸腰筋だけで説明することは現在の海外リハビリの潮流とはやや異なります。
前方関節包、筋膜、神経、運動パターンを含めた多面的な評価こそが、保存療法の成功率を高める鍵になります。
腸腰筋に対するアプローチで改善が乏しい場合、視点を広げることが次の一手になるかもしれません。