はじめに
近年、がん治療中の方を診させていただく機会が増えています。
抗がん剤治療、放射線治療、術後の回復期。
治療は腫瘍を標的としますが、その影響は全身の生理機能に及びます。
私の立場は明確です。
がんそのものに介入することはありません。
腫瘍縮小を目的とすることもありません。
私が見ているのは、
治療を受けている身体の「循環環境」と「免疫環境」です。
治療期に起こる生理学的変化
抗がん剤治療では腫瘍細胞だけでなく正常細胞にも細胞死が生じます。
骨髄抑制、炎症反応、倦怠感、浮腫などはその一部です。
この時期の身体では、
・アポトーシスや壊死細胞の増加
・マクロファージによる貪食処理の増大
・リンパ系への負荷増大
・静脈還流動態の変化
といった生理学的変動が起こります。
これらが滞ると、
・間質浮腫
・微小循環障害
・組織酸素分圧の低下
・炎症遷延
につながります。
私はこの「循環の質」を重要視しています。
排出機構と静脈還流
死細胞や炎症産物の処理には、
・リンパ管系
・静脈系
・肝臓・腎臓の代謝排泄機構
が関与します。
とくに静脈還流は、
組織間質圧のコントロールに直結します。
静脈還流が低下すると、毛細血管の再吸収圧は減少し、
浮腫が助長され、酸素拡散距離が延長します。
これは免疫細胞の機能効率にも影響を及ぼします。
循環の停滞は免疫環境の変化に直結する。
この前提に立っています。
4つの隔膜と圧の連動
私が評価しているのは身体を縦方向に区切る4つの隔膜です。
- 頭蓋底
- 胸郭出口
- 横隔膜
- 骨盤隔膜
これらは単なる構造物ではなく、
呼吸運動に伴う圧変化を調整する機能層です。
呼吸によって生じる
・胸腔内陰圧
・腹腔圧変動
・骨盤内圧変化
は、
・下大静脈還流
・リンパ還流
・脊柱周囲静脈系の血流
に影響を与えます。
どこか一部の可動性が低下すると、
圧伝達が非効率となり、還流補助機構が弱まります。
私はこの「圧の協調性」を臨床的に評価しています。
脊柱周囲静脈系と圧変動
脊柱周囲には弁を持たない静脈網
バトソン静脈叢 が存在します。
この静脈叢は腹圧・胸腔圧の影響を強く受け、血流は双方向性を示します。
腫瘍転移との関連が議論されることもありますが、
転移は単一の血行経路で説明できるものではありません。
しかし確かなことは、
体腔内圧の変動が静脈血流動態に影響するという事実です。
したがって、呼吸と連動した圧調整機構の乱れは、
循環環境に影響を与え得ます。
当院の立ち位置
当院は、がんを治療する医療機関ではありません。
治療は主治医のもとで行われます。
当院がみているのは、
その治療を受けている「身体の状態」です。
抗がん剤や放射線治療によって、
・循環動態は変化し
・体液バランスは揺らぎ
・呼吸の可動性は低下しやすくなります
その結果として、
・浮腫
・倦怠感
・回復の遅れ
といった変化が生じます。
これらは異常というより、
治療に伴う生理的負荷の現れです。
当院では、
・呼吸が自然に入ること
・4つの隔膜が協調して動くこと
・静脈・リンパ還流が妨げられないこと
そうした基礎的な循環環境を丁寧にみています。
特別なことをしているわけではありません。
ただ、
身体の環境が大きく乱れすぎないように。
治療期の負荷が過度に積み重ならないように。
その一点を意識して関わっています。
治療の代わりになるものではありません。
けれど、
治療を受ける身体を整える視点は必要だと考えています。
当院は、その部分を担っています。